愛の物語―詩経の新解釈

『詩経』には男女の愛や結婚に関する歌謡が多く収められている。二千年間の儒教的解釈の後、近代になって宗教学的・民俗学的解釈も生まれた。しかし内容に偏する余り、この解釈も行き詰まった感がある。本ブログでは表現形式、特に言葉そのものに主眼を置き、言語学的・詩学的解釈をめざす。この手法によって古代人の心理のひだに分け入り、愛の諸相を読み解く(訓読・翻訳はほぼ学研・中国の古典『詩経』に依拠)。

2018年02月

有杕之杜ユウテイシト篇―詩経国風・唐風

有杕之杜  杕テイたる杜有り       枝振りのよいやまなしは
生于道左  道の左に 生ず       道のかたわらに茂ってる
彼君子兮  彼の君子よ       恋しい恋しい背の君よ
噬肯適我  噬ここに肯へて我に適け   ねえお願い私のもとへ
中心好之  中心之これを好めり       心底好きでたまらない
曷飲食之  曷なにもて之に飲食せしめん  何のごちそうしてあげよう

有杕之杜  杕テイたる杜有り       枝振りのよいやまなしは
生于道周  道の周くまに 生ず      道のすみに茂ってる
彼君子兮  彼の君子よ       恋しい恋しい背の君よ
噬肯來遊  噬ここに肯へて来り遊べ      ねえお願い遊びにおいで
中心好之  中心之これを好めり       心底好きでたまらない
曷飲食之  曷なにもて之に飲食せしめん  何のごちそうしてあげよう

〈形式分析〉
Ⅰ・Ⅱ   1有杕之杜
    2生于道[a]
    3彼君子兮
    4噬肯[  b  ]
    5中心好之
    6曷飲食之

 

    Ⅰ

    

    a

 左   tsar

 周   tiog

    b

 適  ngar

 來  d(y)iog

 (パラディグム表)


a・bの二か所でパラディグム(同系列語)を変換して二回反復する形式。5・6は一字も変えないリフレーン部である。
縦の列(Ⅰ・Ⅱ)はそれぞれ音声上の類似性をもつパラディグム。Ⅰは~ar、Ⅱは~iogという語尾を共通にもつ。
横の洌(a・b)はそれぞれ意味上の類似性をもつパラディグム。aは空間的位置関係を示す語。植物が生えている場所の指定である。bは人間の行動を表す語。場所を移すという動作(自分のもとに訪れる行為)を表している。b―Ⅰではまっすぐやって来ること、b―Ⅱでは何のためにやって来るかを限定する。
冒頭に植物モチーフを掲げる。これは恋愛の雰囲気や場を設定する働きがある。杜という木が鬱蒼と茂ることは、その下で憩うことを暗示させる。覆いかぶさる植物は女性をかばって守り、大事にする男性の愛の象徴でもある。この木が道の人目につかない場所に存在する。これは男女のデートにうってつけの場所である。女性はここで男性を待っているのである。
3・4は誘いの文句。「こっちへまっすぐいらっしゃい」から「遊びにいらっしゃい」に換える。遊という語は「楽しみを求めて定位置を離れてよそに移動する」ことである。本詩の文脈では恋の遊びであることは言うまでもない。
リフレーン部では「中心之を好めり」という赤裸々な告白の後に、飲食モチーフで締めくくる。「食べる」「飲む」という行為は性的な行為の譬喩になることが多い。詩経には食事モチーフが男女の愛(性愛)を表現する常套的表現である。

〈語釈〉
〇有杕之杜・・・之はA之B(AであるところのB)と二語をつなぐ働きがある。
〇杕・・・枝葉を大きく伸ばして生い茂る様子。
〇杜・・・果樹の名。Pyrus betulaefolia。バラ科ナシ属の落葉高木。マンシュウマメナシ。カホクマメナシ。
〇道左・・・道の片寄った所。
〇君子・・・女性が恋人を呼ぶ称。「背の君」と訳す。
〇兮・・・リズムを調節する詞。
〇噬・・・逝と同じで、リズムを調節する詞。 
〇肯・・・「あえて」と読むが「敢えて」とは違う。うんとうなずいて、心の中で承知しての意味。
〇適・・・ある方向へまっすぐ向かう。まっすぐ行く。
〇好・・・詩経では「愛する」の意味で使われる常套語。
〇曷飲食之・・・曷は「なに」の意味。何で(何を)彼にごちそうしようか。
〇道周・・・周はぐるぐる回って入った所(くま)。左よりも片寄って人目につかない所である。
〇來遊・・・來は情を通じる意図をもって来るといったニュアンスのある詩経の常套語。 

チョ篇―詩経国風・斉風

俟我於著乎而  我を著に俟つ            門の内で待ってる彼氏
充耳以素乎而  充耳は素を以もってす        ちらりと見える白い耳玉
尚之以瓊華乎而 之これに尚くわふるに瓊華ケイカを以てす さらに腰のおび玉揺れる

俟我於庭乎而  我を庭に俟つ           庭の中で待ってる彼氏
充耳以青乎而  充耳は青を以てす               ちらりと見える青い耳玉
尚之以瓊瑩乎而 之に尚くわふるに瓊瑩ケイエイを以てす   さらに腰のおび玉が鳴る

俟我於堂乎而  我を堂に俟つ                 堂の上で待ってる彼氏
充耳以黃乎而  充耳は黄を以てす               ちらりと見える黄色い耳玉
尚之以瓊英乎而 之に尚くわふるに瓊英を以てす            さらに腰のおび玉光る

〈形式分析〉
Ⅰ~Ⅲ 俟我於[a]乎而
    充耳以[b]乎而
    尚之以瓊[c]乎而

 

    Ⅰ

    

    

    a

 著   tiag

 庭   deng

 堂   dang

    b

 素   sag

 青   ts'eng

 黃   ɦuang

    c

 華   ɦuăg

 瑩   ・eng

 英   ・iāng

 (パラディグム表)


毎詩行三つの箇所でパラディグム(同系列語)を変換し、三つのスタンザを反復する形式。パラディグム変換による反復はリフレーンとは違う。同じ三つの場面が繰り返されるように見えるが、中身は少しずつ変わっていき、全体から見れば動画のような動きを作り出す。これが詩経における基本形式の効果である。
パラディグム表を見る。縦の列(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)はそれぞれ音声上の類似性によるパラディグム。Ⅰは~ag、Ⅱは~eng、Ⅲは~angの韻尾が共通。差異の中の類似を発見することが詩法の一つのテクニックである。この類似の発見が意味領域の異なるものを結びつける。
横の列(a・b・c)はそれぞれ意味上の類似性によるパラディグム。同じ意味領域で異なった意味の言葉の発見が詩の眼目でもある。aは著(塀と門の間の場所)→庭→堂の変換によって空間移動を表している。恋人が門に入り、庭に入り、堂に入っていくという一連の動きが表現されている。作者(女性)は家のどこからかそれを見ている。さらに次の詩行における男が身につけるアクセサリーの色(白→青→黄)、種類(瓊華→瓊瑩→瓊英)とが次々と姿を変えて作者の目に映じ、それらが恋人の到来を告げる。心理が直接に表現されていないのに作者の胸の高まりはクライマックスに達していく。

〈語釈〉
〇著・・・門の内側にあって、家を遮る塀と、門の間の場所。家に入る客がしばらく立ち止まる場所である。
〇乎而・・・リズムを調節する詞。
〇充耳・・・耳飾り。男もイヤリングをつけた。
〇素・・・白色。
〇尚之・・・尚は「その上にくわえる」 の意味。尚之は「さらにそれに加えて」の意味。
〇瓊華・・・色の混じっている宝石。瓊は美しい意味。瓊華は男が腰に帯びる佩玉の一つ。佩玉のプレゼントは男の女に対する告白の常套的表現なので、これが下敷きになっている。つまり佩玉への熱い視線は男の告白(あるいは結婚の申し込み)の期待である。
〇庭・・・堂の前の広場。平らに均した庭。
〇瓊瑩・・・光が中に透き通る宝石。これも佩玉の一つ。
〇瓊英・・・光って色の美しい宝石。
 

考槃コウハン篇―詩経国風・衛風


考槃在澗  考槃して澗カンに在り      野遊びして谷川に来たら
碩人之寬  碩人セキジンの寛カンなる     すてきな人のうっとりした顔
獨寐寤言  独り寐ね寤めては言ふ   ひとり寝の夢覚めてつぶやく
永矢弗諼  永く矢ちかひて諼わすれじ    逢瀬忘れるまいいつまでも

考槃在阿  考槃して阿に在り        野遊びして丘まで来たら
碩人之薖  碩人の薖なる        すてきな人のしなやかな体
獨寐寤歌  独り寐ね寤めては歌ふ   ひとり寝の夢覚めて口ずさむ
永矢弗過  永く矢ちかひて過ごさじ       思い出こわすまいいつまでも

考槃在陸  考槃して陸に在り       野遊びして原まで来たら
碩人之軸  碩人の軸ジクなる      すてきな人のうしろ姿よ
獨寐寤宿  独り寐ね寤めては宿シュクす   ひとり寝の夢覚めてじっとする
永矢弗吿  永く矢ちかひて告げじ          誰にも言うまいいつまでも

〈形式分析〉
Ⅰ~Ⅲ 1考槃在[a]
    2碩人之[b]
    3獨寐寤[c]
    4永矢弗[d]

 

    Ⅰ

    Ⅱ

    Ⅲ

    a

 澗   kăn

 阿   ・ar

 陸   liok

    b

 寬   k'uan

 薖   k'uar

 軸   diok

    c

 言   ngiăn

 歌   kar

 宿   siok

    d

 諼   hiuăn

 過   kuar

 吿   kok

(パラディグム表)

毎詩行一か所でパラディグム(同系列語)を変換して三つのスタンザを反復する形式。
縦列(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)はそれぞれ音声上の類似性をもつパラディグム。Ⅰは~ăn、Ⅱは~ar、Ⅲは~okの韻尾が共通である。異なった意味領域の語が音声の類似だけで結びつけられる。古典漢語は音韻体系が整然としているので、音声上のパラディグムが豊富である。何を選択するかが詩の眼目である。単なる思いつきの類似ではなく、意味上の類似性のパラディグムと網の目のように交差させないといけない。これは高度な詩法のテクニックである。
横列は意味の類似性をもつパラディグムである。aは地勢に関わる語。男女がデートをする場所の呈示。澗(谷川)→阿(川や丘の隈)→陸(丘、陸地)への変換は人目につかない場所から明るい広々とした場所への空間移動を示している。bは女性の姿態や振る舞いに関わる語。寛(ゆったりとくつろいださま)→薖(体が丸みをびて柔らかいさま)→軸(ひらりと身をひるがえすさま)への変換は女性の容姿や振る舞いのさまざまな変化を描く。cは作者(男性)の発言・発話に関わる語。思い出して独り言を言ったり歌ったり昂奮することから、何も言わないでじっと思い出に浸る場面へと変化する。dは作者の心理を述べる語。野外での楽しいデートの思い出を心に秘めて長く忘れないという誓いを述べる。
1・2は野外での野遊びの情景。2で恋人が出てくる。3・4は一転して家の中に変わる。独り寝をして楽しい夢から覚めて(3)、野遊びの思い出に浸る作者の独白(4)である。

〈語釈〉
〇考槃・・・考は曲がりくねる意味、槃はぐるぐる回る意味で、考槃はあちこち遊び回って楽しむことをいう。
〇澗・・・山と山に挟まれた水の流れ。谷間。
〇碩人・・・詩経の常套語で、ふくよかな女性、また、かっぷくのよい男性。本詩では女性である。
〇寬・・・ゆったりとしたさま。空間的にゆったりしたことから、精神的に余裕のあること、また心理的にゆったりと落ち着いた状態をいう。
〇矢・・・「誓う」という意味。
〇阿・・・山や川の曲がって入り組んだ所、隈。
〇薖・・・咼は「丸い」というイメージがあり、丸みがあって柔らかな感じを表す語。
〇過・・・程度を越す意味。
〇陸・・・小高い土地。川や山に対しては野原である。
〇軸・・・するりと抜け出るように進む意味。ひらりと身をひるがえして立ち去ることを暗示させる。
〇宿・・・じっと止めおく。
〇告・・・秘密などを他人に告げる。

 

采苓サイレイ篇―詩経国風・唐風

采苓采苓  苓レイを采り苓を采る      あまくさ摘む あまくさ摘む
首陽之巓  首陽の巓いただき         首陽の山のいただき
人之爲言 人の為せる言は        まことしやかな噂なんか
苟亦無信 苟いやしくも亦また信ずる無かれ  ゆめゆめ信じてはだめ
舍旃舍旃 旃これを舎け旃を舎け       いけない いけない
苟亦無然 苟くも亦然しかりとする無かれ  ゆめゆめ本気にしちゃだめ
人之爲言 人の為せる言は       まことしやかな噂なんか
胡得焉  胡なんぞ得んや          なんでもないから

采苦采苦  苦を采り苓を采る        のげし摘む のげし摘む
首陽之下  首陽の下              首陽の山のふもと
人之爲言 人の為せる言は          まことしやかな噂なんか
苟亦無與 苟いやしくも亦またくみする無かれ ゆめゆめ引っ掛かってはだめ
舍旃舍旃 旃これを舎け旃を舎け       いけない いけない
苟亦無然 苟くも亦然しかりとする無かれ  ゆめゆめ本気にしちゃだめ
人之爲言 人の為せる言は       まことしやかな噂なんか
胡得焉  胡なんぞ得んや          なんでもないから

采葑采葑  葑ホウを采り葑を采る        かぶら摘む かぶら摘む
首陽之東  首陽の東           首陽の山の東
人之爲言 人の為せる言は          まことしやかな噂なんか
苟亦無從 苟いやしくも亦また従ふ無かれ     ゆめゆめ信じてはだめ
舍旃舍旃 旃これを舎け旃を舎け         いけない いけない
苟亦無然 苟くも亦然しかりとする無かれ  ゆめゆめ本気にしちゃだめ
人之爲言 人の為せる言は       まことしやかな噂なんか
胡得焉  胡なんぞ得んや          なんでもないから

〈形式分析〉
Ⅰ~Ⅲ 1采[a]采[a]
    2首陽之[b]
    3人之爲言
    4苟亦無[c]
    5舍旃舍旃
    6苟亦無然
    7人之爲言
    8胡得焉

 

    Ⅰ

    

    

    a

  苓   leng

  苦   k'ag

  葑   piung

    b

  巓   ten

  下   ɦăg

  東   tung

    c

  信   sien

  與   ɦiag

  從   dziung

(パラディグム表)

a・b・cの三か所でパラディグム(同系列語)を変換し、三回反復する形式。5~8は一字も変えないリフレーン部である。リフレーン部でも6は4を一字変えた反復、7は3の完全な反復になっている。
パラディグム表を見る。縦列(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)はそれぞれ音声上の類似性をもつパラディグム。Ⅰでは苓が~engの語尾、巓と信が~enの語尾で違っている。しかし苓はレンの音(語尾が~en)に転じる場合があるので、違和感はない。通韻の範囲内である。
横列(a・b・c)はそれぞれ意味上の類似性をもつパラディグム。aは植物の名。bは山の位置(空間)を示す語。上から下、中心から側面へ場所が移動する。cは人間の行為(心理や行動)に関わる語。信は事実と見なすこと、與は一緒に行動すること、從は相手に付き従うこと。
冒頭に摘草モチーフを置く。これは恋愛の場の設定をする働きがある。恋人たちは楽しげに草摘みをしているように見えるが、次の詩行で一転して、人の噂を恐怖する心理が描かれている。噂を信ずるなと恋人に執拗に懇願している。秘密めいた恋である。

〈語釈〉
〇苓・・・草の名。Glycyrrhiza uralensis。マメ科カンゾウ属の多年草、ウラルカンゾウ。茎は直立する。根茎は円柱状で地中深くのびる。根が甘いので甘草の名がある。
〇采苓・・・采葛などと同様、草摘みモチーフとして定型的な表現。恋愛の雰囲気や場を造形する。
〇首陽・・・山西省にある山の名。唐風は山西省で採集された歌謡である。
〇人之爲言・・・他人がわざと言い触らす言葉、噂。爲は作為を加えて元の姿や性質を変えるというイメージがあり、その極端な場合は偽(いつわり、うそ)となる。詩経ではほかに「人之多言」「民之訛言」などがある。噂の怖さを言い表す常套語である。
〇苟・・・「いやしくも」と読む。かりそめにも、万が一にも。
〇舍旃・・・舎は捨ておく意味。旃はリズムを調節する詞だが、「これ」と読む。
〇然・・・しかりとする。本当だと思う。
〇胡得焉・・・反問文で、「なんぞ得んや」と読む。どうして当たっていようか。焉はリズムを調節する詞。
〇苦・・・草の名。Sonchus oleraceus。キク科ノゲシ属の一・二年草。ノゲシ。茎は中空。茎や葉を切ると白い汁が出、味が苦い。
〇與・・・「くみす」と読む。一緒になる。味方する。加担する。
〇葑・・・草の名。Brassica campestris var.glabra。アブラナ科アブラナ属の二年草。カブ。カブラ。茎は直立する。塊根は球形または長楕円形で食用。
〇從・・・相手の言うがままになる。


揚之水ヨウシスイ篇―詩経国風・鄭風

揚之水    揚あがれる水        早瀬のたばしる水でさえ
不流束楚   束楚ソクソを流さず         束ねたいばらを流せない
終鮮兄弟   終に兄弟鮮すくなく      兄弟姉妹が少なくて
維予與女   維れ予われと女なんじとのみ   残っているのは私とお前
無信人之言  人の言を信ずる無かれ    人の言葉を信じてはだめ
人實迋女   人は実まことに女を迋あざむく   人はお前をだますから

揚之水    揚あがれる水        早瀬のたばしる水でさえ
不流束薪   束薪を流さず         束ねたたきぎを流せない
終鮮兄弟   終に兄弟鮮すくなく      兄弟姉妹が少なくて
維予二人   維れ予われ二人のみ     残っているのは私たち二人
無信人之言  人の言を信ずる無かれ    人の言葉を信じてはだめ
人實不信   人は実まことに信ならず      人はほんとうに不実だから

〈形式分析〉
Ⅰ・Ⅱ  1揚之水
   2不流束[a]
   3終鮮兄弟
   4維予[  b ]
   5無信人之言
   6人實[  c ]

 

     

    Ⅱ

     a

  楚     ts"ïag

  薪    sien

                    b

  與    niag

  二   nien

                    c

                  niag

  不   sien

 (パラディグム表)

偶数詩行でパラディグム(同系列語)を変換し二つのスタンザに反復し展開させる。奇数詩行は一字も換えないリフレーンである。
縦列(Ⅰ・Ⅱ)はそれぞれ音声上の類似性をもつパラディグム(全く同音もある)

横列は意味上の類似性をもつパラディグム。aは植物と関係のある語。bは人間と関係のある語。b―Ⅰは一人の人、b―Ⅱは二人の人。cは人間の性情に関係のある語。c―Ⅰは欺瞞性、cーⅡは不誠実さである。
冒頭の二詩行(1・2)は自然界の出来事である。激流の早瀬が束ねた植物を流すことができないと述べている。これはどういうことか。束楚や束薪は一本一本が分離しているものを束ねることによってばらばらにならないこと、つまりしっかり結合していることを表す常套語である。束薪モチーフは結合を象徴する。この束薪が急流に投げ込まれてもばらばらになって流れることがないということは次の詩行の予示となる。男女二人がどんな境遇でも、妨害者によって愛を妨げられ、引き離されることがないことを意味する。愛の妨害者は身内ではなく他人である。二人にとって他人は欺瞞と不誠実に満ちている。
二人は兄と妹と取ることもできるが、束薪モチーフが冒頭に掲げられているから、恋愛がテーマであることが示され、二人を相思相愛の男女と見ることができる。

〈語釈〉
〇揚之水・・・「揚れる水」は飛沫を上げて烈しく流れる水。之は「AのB」と二つの語を結ぶ働きがある。
〇束楚・・・楚はVitex negundo var.cannabifolia、クマツヅラ科ハマゴウ属の落葉低木のニンジンボク。古代では鞭や薪に用いた。
〇終・・・ついに、とうとう。
〇鮮・・・少ない。
〇維・・・リズムを調節する詞。「これ」と読む。
〇女・・・詩経では未婚の若いおんなの意味のほかに二人称に使われる。後の汝と同じ。
〇迋・・・口先ででたらめを言ってだます。たぶらかす。
〇不信・・・真実ではない。不誠実である。
 

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